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ハッピーちゃんを忘れない

私にはふとした瞬間にどうしても思い出してしまう子がいる。

その子は作品の中で特別目立った活躍をしてもいなかった。目立たない存在だったかもしれないし、私自身ある瞬間までは特別意識もしていない子だった。

でも、その子は観葉植物みたいにその場にいるだけでみんながほっとするような安心感のある優しいかわいい女の子だった。

その子は、ハッピーちゃん。

作品名は「やすらぎの郷」。倉本聰さんが手がけたドラマである。昼ドラ枠で2017年4月3日から9月29日まで放送された。

あらすじとしては、芸能界の第一線で活躍したテレビ界の大御所たちが高級老人施設で繰り広げる日々のあれやこれやを、石坂浩二さん演じる往年の名脚本家視点で見るというドラマである。

ハッピーちゃんというのは、その施設の中に設けられたバーで働くバーテンダーである。

松岡茉優さん演じるハッピーちゃん(当然、あだ名。見てると幸せな気分になるような笑顔の可愛い子だから、みんなからそう呼ばれてる)が、分かったのか分かっていないのかハッキリしない表情を見せながらおじいちゃんたちの話し相手になったり、時には彼らが語り合う空間を邪魔しないように静かに空気に徹したりと、ドラマ内最年少ながら素晴らしい気働きを見せる女の子だった。

いつもニコニコして、みんなの孫みたいな雰囲気で、誰からも愛される女の子。それがハッピーちゃんだった。施設内のおじいちゃんおばあちゃん達の珍道中や悲喜こもごもの事件が起きても、きっとこの子の周りはずっと穏やかで幸せな空気が漂い続けていくんだろうなと思わせる子だった。いや、正確にはそんな考えすらわざわざ思い浮かばないような、当たり前のように幸せな空気を持っている女の子だった。

そんなハッピーちゃんが、ある夜、犯罪被害者になった。

レイプされたのである。

事件は職場からの帰り道に起きた。

いつもより遅めの店じまいになったハッピーちゃんは、施設のある小高い丘から自転車に乗って山道を下っていると(ここの場面で、女の子一人の帰りなのにバスにもタクシーにも乗せずに自転車で帰らせているという衝撃の事実が発覚する)その途中でうずくまる若い女と彼女を介抱する若い男数名に遭遇。「大丈夫ですか?」と自転車から降りて駆け寄るハッピーちゃんを、その若い男たちがいきなり羽交い絞めにしてそのまま山奥に引きずり込んだのである。(若い女はそれ以降出てこず。謎すぎるし、設定がばがばすぎでしょ)

ハッピーちゃんは彼らに輪姦された後、同じ施設の介護士(元不良、今は完全に更生済みの真面目な男の子)に発見されて保護された。

犯人は、地元の不良グループ。(こいつらがマジで見た目もセリフもくそだっせえのなんの。暴言失礼。)なんでそんな事に及んだのかは分からず。

伏線あったかなと頑張って探したけど、何にも見つからなかった。しいて言えば、発見した介護士の男の子が以前そいつらのグループにいたことくらい?でも、そのシーンになるまではこいつらが彼になにか突っかかっているシーンも描写も無かったから恐らくそれが直接の原因とは思えず。

この事件は当初はハッピーちゃん自身も公にしたくないと望むことから警察沙汰にもならず(ちなみにこのハッピーちゃんの行動に対して、劇中内でなにか疑問をなげかけることも無かったと思います)、施設利用者にも知らせない予定だったけど、本人の意思は完全無視で一瞬で老人たちのゴシップの種となる。

その中でかつて極道者だった施設関係者のおじさんたちが不良グループに殴り込みに行こうとするのを往年の名俳優がストップをかけて、やくざのドンみたいな芝居をその加害者たちのアジトで演じてビビらせておじさんたちは溜飲を下げる。

一方、ハッピーちゃんは職場のバーでおばあちゃんたちに「忘れなさいよ」って言われてこの件は終了。

これが、一連の「ハッピーちゃん事件」のあらまし。

私はこれがどうしても許せなかった。今でも許せないままでいる。

どうしてハッピーちゃんはこんなひどい目に遭わなきゃいけなかったの?

なんでこんな事件を起こしたの?

こんな事件のまとめ方、あんまりなんじゃないの?

そもそもこの展開はストーリーで必要だったの?

色んな疑問が頭の中を駆け巡っている。

ドラマから何年も経った今でもこれは変わらない。心が元気な時はさすがに落ち着いているけれど、それでも少し心が曇りがちになった時にふとよぎるのがハッピーちゃんなのだ。

レイプを描くことで、一体何を表現したかったんだろう。

もし仮にそれを展開に描くにしても、なにかそれを題材にすることでどうしても表現したいものがあるのなら、まだ救いはある(それでも絶対に許すことは出来ないが)。

例えば、性被害者の心を描く。事件前と事件後で、男性に対しての心の動き方の変化。トラウマとの対峙。そこからの復活。

あるいは、警察や関係機関の対応を描くのもありだと思う。被害者に対して警察がどんな捜査を行うのか。それがどんなに被害者を傷つけていくのか。

でも、ドラマではそんなとこは一切見受けられなかった。

しかも突っ込みたいのが第一発見者、男なんですよ。なのに、ハッピーちゃん取り乱すこともせず彼と二人きりで現場から施設までの距離を車で移動しているんです。そして、彼に介抱されて、体触られて、歩いてるんです。

性被害に遭った直後に、見知った仲の安全な人間であっても、男性に体を障られて大人しくしているのってあまりにご都合主義的じゃない?

せめて立ち上がるのを助けようと腕を取ろうとした瞬間叫び出すとか、そのあたりの描写入れてほしかった。

結局、倉本さんはレイプをエンタメとしか見ていない気がする。

物語の都合上、元やくざのおじさんたちを怒らせて、そんなおじさんたちを黙らせる俳優が一肌脱いで性質の悪い最近の若者を黙らせる…。そんな展開が欲しかっただけに、あの事件を起こした。その結果、ハッピーちゃんは泣いた。傷ついた。

物語の山場づくりのため。それ以上でもそれ以下でもない、レイプ事件。

こんなのってない。

こんなのって、あまりにキャラクターを粗末に扱いすぎなんじゃないの。

ひどい。

もっと何か、話により深みをもたせるためなら、第一発見者の男の子と不良グループをもっと以前から描いておくとか、そういった設定もできたはず。なのにそれもない。

自分なりに色々考えたけど、どうしてもエンタメって理由以外思いつかなかった。

ちなみに私はこれ以降、「やすらぎの郷」の視聴を中止しました。ハッピーちゃんの事件を日頃の平和で退屈な日常を紛らわすためのゴシップとして消化していた(としか私には見えなかった)施設のジジババ達にも愛想が尽きたから。

それまでは、毎日の帰宅後の楽しみとして録画分を夕食食べながら見るくらいには好きだったんだけどね!

今もドラマの続編がやっているみたいだけど、もはや興味もわかない。(なんで続編の存在を知ったかというと、母が教えてくれたから)まったく見ていない。

 

劇中の名女優は、事件後にバーカウンターでハッピーちゃんにこう言った。

ハッピー。忘れるのよ、忘れるのが一番。忘れてオンナはね、オンナになっていくのよ」

でも私は決して忘れない。忘れる事なんてできない。オンナだから。

ハッピーちゃんの悲しさ、悔しさを、忘れない。

大好きなキャラクターを踏みにじられた悔しさを私は忘れない。